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Lebe gehorsam

魔法の手を持つ整形外科医


僕は整形外科医だ。
長い事、大学病院で働き、ここ最近自分の病院を開業した。
大学病院に通って居る患者さんも、有難い事に開業したばかりの僕の病院にも足を運ぶ。
「おめでとう。」と、花を持ってきてくれる。
「先生、これ食べて。」と、どら焼きをもってきてくれる。

えらい金額の借金をこさえ、不安ばかりの僕なのに、患者さんは「先生、おめでとう。頑張るんだで」と、優しく言ってくれる。
僕はここで頑張らなければならない。
大学病院では出来ない事を、開業医として行っていかなければならない。
僕が求めた治療は、魔法の手だから。

随分前に、医師によるセクハラ事件が新聞やニュースで話題になった。
大学病院では、セクハラ問題を取り上げ、医師に注意を促す。
僕等は可能な限り 患者に触れない診療となった。

そんな時、一人の女性が首が痛いと病院に来た。
近くの整形外科で観てもらったが 軽いむち打ちと診断された。
痛み止めと湿布で一週間過ごしたが、熱が下がらない。とうとう彼女は起き上がる事もできなくなり、救急車で大学病院に運ばれた。
彼女はむち打ちではなく、ウイルス感染をおこして居た。
二週間程前、海外から帰って来たばかりだと後に知る。
彼女がかかった「近くの整形外科」に、僕は怒りを覚えた。

30代後半だろうか?
疲れきって眠っている彼女の顔は、まるで子供の寝顔。
半分口を開き、安心して眠っている子供の寝顔。
僕は彼女の首筋、肩、熱を確認する。この病院ではご法度なのだが。

熱からさめた彼女は首の痛みもとれ、笑顔に戻る。
診察の時彼女が言う。
「ねぇ先生、どうして私を触らないの?首、確認しないの?」
僕はしどろもどろになる。セクハラ対策とは言えない・・・
ベテラン看護師がうまく誤魔化してくれるから 有難い。
「先生の手は魔法の手なのに。入院した日、先生の手が首を触った時、冷たくて気持ちよかった。もう大丈夫だよって、そんな気がしたのに。」
僕は無言。。。何も彼女に言えないのだ。

「医者ならちゃんと 患者をみろよな!」

精神科の医師はいう。
「病気ってね、お腹を撫でてもらうだけで治ったりするんですよ。特に子供や年寄はね。」
僕は・・・・なんで医者になったんだろ。


開業した僕の病院に、彼女はたまに現れる。
腰が痛い=坐骨神経痛・・・動けよ、歩けよ。
今ではコントのように会話ができる関係になった。

僕の妻は大学病院を辞める時、さんざん僕を責めたが、
開業医で暮らしていける事が分かると、満面の笑みを浮かべ人様に愛想を振りまく。 彼女も妻も同じ女。 女性、恐るべし。